2025-01-02

初詣

 無精なので、数十年にわたり初詣というものを怠っていた。信心が薄いというのもある。

 大きな神社への初詣は、幼少の頃に親に連れられて行ったが、そういう年頃でもなくなってからは行かなくなった。混むので親が行かなくなったというのもあるが、それでも親は近所の神社に初詣に行っていた。合理主義の親であったが、そういうところは案外信心深い。

 かくいう私は怠け者なので、徒歩5分か10分程度の神社にさえ行かなかった。

 

 ただ、ふと何を思ったのか、今年は初詣に行ってみる気になった。特に深い理由や心変わりがあったわけではないが、初詣に行かなかったことに宗教的理由があったわけでもない。

 今の家の近く(徒歩1分)に小さいながら神社もあるし、「まあ行くか」と思ったのである。たまには行っても罰は当たるまい。日中に行くと混んだりするかもしれないので、ゴミを捨てたその足で、深夜に行ってみた。案の定人はいなかったが、逆に賽銭泥棒かなにかと疑われそうである。

 深夜に鐘を鳴らすのも近所迷惑だろうと思い、二礼二拍をして立ち去った。結局お賽銭はしなかった。最近は、小銭だと逆に銀行で手数料がかかって損になるらしい。かといって、100円とか500円とか払うほどの信心はない。PayPayでお賽銭をする神社もあると聞くので、一応スマホは持参したのだが、PayPayお賽銭には対応していなかったらしい。ということで、結局何も支払わずに帰ってきた。

 

 個人的にはデジタル化には賛成であるし、むしろ積極的に乗っている方ではあるが、さすがにPayPayお賽銭はなんとなく心理的抵抗感がある。まああったらやるつもりではあったが、どうしてもありがたみが薄く感じてしまう。自分も案外感性が古い人間なのかもしれない。

 

 ところで、向田邦子のエッセイに「隣りの神様」というのがある。向田邦子が作った同名のドラマがあるが、たぶんストーリーはだいぶ違う(今ドラマのあらすじを読んでみたけど、「いやそんな作品じゃなかっただろう」と思った)。

 「生まれて初めて喪服を作った。」という書き出しで始まり、「隣りの神様を拝むのに、七年かかってしまった。」という文で閉じられている。

 それがどういう話なのかは、実際に読んで頂きたいが(色んな話が入っているのでまとめづらいのだ)、私も近所の神様を拝むのに長い年月を費やした。齢を重ねて、素直に拝もうという気持ちになったのかもしれない。

 

箱根駅伝

 今年の箱根駅伝2区は、まさに異常事態だった。区間賞はエティーリで65分31秒。区間2位が吉田響で65分43秒、3位は黒田朝日で65分44秒。3人とも区間新記録。

 今日解説をしていた渡辺康幸は、当時66分48秒の区間記録を打ち立てた(1995年)。その年、渡辺は10000mで27分48秒を出しており、当時の日本学生記録だ。

 渡辺の区間記録は永久不滅とまで思われたが、4年後の1999年に、三代直樹が66分46秒で塗り替えた。三代はその翌年に10000mで27分59秒を出している。

 要するに、2区66分台というのは、10000m27分台レベルという、日本学生記録を打ち立てるレベルの選手でなければ出せない記録だったのだ。

 

 この2区の記録は、2007年にモグスが66分23秒を出すことで破られることになる。逆にいえば、8年もの間、外国人留学生をもってしても更新できなかった記録だった。

 もちろん、気象状況等によって記録は左右されるから、ある意味で運要素も強い。とはいえ、現在の中央大学の監督である藤原正和でさえ、67分31秒だったのだ。4年次の藤原は、ユニバーシアードハーフマラソンで金メダルを取っており、学生長距離界において敵なしという無類の強さを誇っていた。そして、圧巻の区間賞だったわけだが、それでも67分31秒だ。これでも、当時としては歴代屈指の好記録だった。

 しかし、今回の2区にあてはめると、67分31秒は区間14位でしかない。18年前の好記録は、もはや現代ではブレーキといわれるレベルの記録になってしまった。

 

 今日のレースを見ていても、駒沢の篠原は失速したように見えるが、それでも66分14秒であり、前回大会まででいえば歴代6位の大記録だ。田澤廉の記録と1秒差しかない。

 先頭をのんびり走っていたように見える中央の溜池でさえ、66分39秒だ。区間9位だから、全体の順位からすれば芳しくはないものの、渡辺康幸の記録も三代直樹の記録も上回っている。

 近年、競技水準が上がっていることを踏まえたとしても、それでも今年の記録は異常というほかない。

 ただ、おそらく、これがきっと標準になっていくのだろう。今年のエントリー選手の10000mのベストも、27分台がもはや珍しくなくなった。2000年頃は、28分台でエースと呼ばれる水準であり、28分30秒で大エースだった。したがって、27分台といえば、かつては数年に1人出るレベルの、日本学生記録レベルだったのだ。

 しかし、27分台がうじゃうじゃいるような水準になれば、2区66分台なんてザラ。そのうち、65分台は出さないと区間賞は獲れないという時代になり、10000mで26分台を出す学生も出てくるかもしれない。

 

 隔世の感もあるが、進化していることは素直にすごいと思う。100年に1人の天才と呼ばれた佐藤清治の記録も徐々に塗り替えられている。

 800mの日本高校記録(1分48秒50)は、11年経ってようやく2010年に川元奨によって塗り替えられ(1分48秒46)、現在ではそれよりも4秒も早い1分44秒80が日本高校記録となっている。

 1500mも、佐藤清治が打ち立てた3分38秒49が長らく日本高校記録であったが、22年後に佐藤圭汰が3分37秒18で塗り替えた。

 全国高校駅伝2区の記録は、日本人にはまだ破られていないものの、フェリックス・ムティアニによって去年塗り替えられた。余談だが、全国高校駅伝5区の記録は永久不滅だといわれていたが(というか計測ミスとしか思えない)、一昨年に佐々木哲が8秒も塗り替えた。

 計測ミスとしか思えない記録さえ塗り替えられ、佐藤清治という不世出の天才の記録さえ塗り替えられている。要するに時代が変わってきているのだ。

 もちろん、世界も進化しているので、五輪で金メダルを獲れるとかいう話ではないのだが、従来の記録を塗り替えていく様は驚かされるし、心地よいものがある。前人未到と思われる大記録も、若い人にどんどん乗り越えていって欲しいと思う。